美馬坂愛は人生に迷っていた。
美馬坂愛は人生に迷っていた。
OLとして数年働いていて、収入もそこそこある。けれども彼女の中には靄のように広がる迷いがある。自分の居場所は果してここなのだろうか?
ただ生活のために漠然とした意識で働く、今の人生が自分の望んだとおりの人生なのだろうか?彼女は唐突に自分の人生に不安によく似た迷いを生じさせていたわけではない。
周囲は次々と人生の転機を迎えた。
一番最初は妹が結婚した、次は友達が起業した、会社の同僚は難しい資格を取って、より良い仕事につこうと画策していることを教えてくれた。周りは自分らしく生きようと人生の舵を切った。彼女だけを置いていった。置いていかれた彼女に、迷いだけを残した。
仕事が終わり、浮かぬ気分のまま彼女は家路につく。家は会社から一時間ほどのところにある。商店街を通っていると、英会話教材の紹介するビデオが、目についた。
金髪の外国人が晴れやかな笑顔で紹介しているが、彼女の頭にはぴんと来ない。
英語には興味があったけど…
実は英語、特に英会話には興味があった。他国の人間と関われるようになったら面白いだろうと思う。でも日本語だらけの日本で、英語を勉強しても身につけられるか自信はない。
強制的に英語だらけの国に行った方がいいような気がする。
でも、だからといって、半年も外国に行けないけどね。彼女は自嘲すした。そして諦めた足取りで、家につく。だが彼女の運命はそこで急転直下で動き始めた。
何となく諦められない思いで、インターネットで短期間の留学を探す。
探せば探すほどに、勉強したい気持ちがこみあがる。やはり勉強したい。でもそんなに長く留学出来るわけがない。
するとあるサイトの紹介が目についた。フィリピンのパラワン島の学校だ。
本気で勉強したい学生を募集している学校。留学地であるパラワン島は大自然に恵まれたリゾートだという。ランキングにものるその美しさ、清潔さ、安全性は高い。
そこで六十日間、英語づけで勉強する。
彼女は自分の有給の数を確認すると、ちょうどこの留学期間にまかなえる数だった。
貯蓄もそこそも貯めているので、この留学なら何とかやることが出来る。
授業のシステムも心配は少なかった。
マンツーマンで、生徒にとにかく話をさせ、先生が常にスケジュールと習熟度を把握し、OKを出す。話せるようにトレーニングを積ませる。
勉強の疎外にならないよう、生活や食事のサポートをしてくれる。自分はただ一生懸命に勉強するだけだ。英語を話さざる得ない環境だから、自分の望む英語づけが出来る。
大事なのはやる気だという。勉強についていけるだけのやる気。
せっかくここまで御膳立てしていて、お金もきちんと払っているのに、何も身につかないのは恥ずかしい。情けない。
きっと無理…と思ってしまうような
何より、これに行くとしたら、自分は変わる覚悟をしなければいけない。今までのような、やりたいけど、きっと無理と思ってしまうような意志ではなく、絶対に身につけると決めた意志を。彼女はこぶしを握りしめた。
「私はここで、人生を変える」
彼女は最後のチャンスだといわんばかりに、PMESの学校サイトを食い入るように見た。
彼女は知らない。
このPMESとの出会いが、彼女の人生を大きく前進させることを。
英語のエキスパートになることを。
彼女はまだ知らない。